子ぎつねのクウタは、とっても食いしん坊です。

あまいにおいにさそわれて、町までおりてきてしまいました。

クンクン。いいにおいだなあ。この中からにおいがするぞ。

クウタがのぞいたお店は、和菓子屋さんです。

ショーケースの中には、色とりどりの和菓子が、きれいにならんでいます。

クウタは、しばらくものかげにかくれて、和菓子屋をながめていました。

すると、人間の女の人が、お店に入っていきました。お客さんです。

女の人は、ガラス戸のはりがみを指さして、

「さくらもち、二つ、ください」

と、お店の人に言いました。

「はい。二百円になります。ありがとうございました。」

お客さんは、お金をはらって、さくらもちをうけとり、お店を出ていきました。

クウタが、お客さんが指さした方をみあげると、

さくらもち 百円

と、大きく書いてあります。

クウタは、しっぽを右に、左に、動かしながら、考えました。

さくらもち、というのは、二つで二百円である。二百円とひきかえに、もらうことができるらしい。

クウタはもう一度、さくらの葉でつつまれた、さくら色のさくらもちを見つめました。

二百円があればなあ。食べたいなあ。

でも、クウタは子ぎつねです。夕暮れにはあきらめて、とぼとぼお山に帰っていきました。

その晩。クウタは、母ぎつねに二百円のことを聞いてみました。

「それは人間が使う、お金というものよ。いろいろな物とこうかんする道具なの」

「お金はどこになってるの?僕もとってこれるところ?」

クウタはしんけんです。母ぎつねは、クウタのおでこをなめつつ、教えてくれました。

「お金はね、お山の木になるのではないのよ。土の中にかくれてもいないの。人間がもっているのよ」

「ふうん。そうなのかあ。じゃあ、じゃあね。人間から、お金をもらえるには、どうしたらいいの?」

母ぎつねはこまってしまいました。そんなこと、考えたこともなかったからです。さあさ、もうおやすみの時間ですよ。といって、先にまるくなって、寝てしまいました。

次の日も、クウタは町にやってきて、和菓子屋をながめていました。

お店に、次々とお客さんがやってきて、和菓子を買っていきます。

クウタは、お金が丸くて、小さくて、ねずみ色のやつと、あかい土色のものがあることを知りました。たまに、紙切れみたいなものも、ありました。

和菓子を買ったお客さんは、そのとなりの無人市で、野菜も買っていく時がありました。

無人市、というのは、お店番がいない、お店のことです。野菜には、作った人の名前と、値段が書いてあります。お客さんは、その紙を見て、勝手に、お金を木箱に払って、買い物をしていくのです。

クウタが、だれもいないすきにのぞいてみると、たくさん野菜が売られていました。

ほうれんそう、キャベツ、こまつな、そら豆、大根、たまねぎ。

その中には、ワラビもありました。

お、これは知っているぞ。お山にはえているワラビじゃないか。

クウタは、いいことを思いつきました。

ワラビを売ろうと思いついたのです。

クウタは、さっそくお山へかけて行きました。

お山は山桜がまんかいで、ほんわりピンク色です。

クウタは、ピョンピョンはねて、いつも遊んでいる原っぱまでやってきました。

ある、ある。ワラビは、原っぱじゅうに、ニョキ、ニョキ、生えています。

クウタは喜んで、いっしょうけんめい、ワラビをつみました。

いつのまにか、お空が、朱色にそまってきました。夕暮れです。

クウタは、ワラビをじょうぶなツルでしばりました。

急いで町にもどって、無人市にワラビを並べます。

並べたワラビを見て、クウタはにんまりしました。

売れるといいな。ぼくのワラビ。

あと、ねだんと名前をつけないといけません。そなえつけてある、紙とペンを持って、クウタはこまってしまいました。

クウタは子ぎつねですから。

クウタは、和菓子屋のはり紙をよーく見て、まねして書くことにしました。

さくらもち 百円

時間がかかりましたが、なんとか書けました。その紙をワラビにくっつけて、クウタはピョンピョンはねて、お山に帰って行きました。

クウタがいなくなった後、ワラビはすぐに売れました。ご近所の、奥さんが、夕ごはんのお煮付けに、買っていったんです。

その晩。無人市のむかいに住んでいて、お金を管理している、山本のおじさんは、お金を数えながら、変な紙があるのに気がつきました。みみずがのたうったような、あまり上手ではない字で、さくらもち 百円、と書いてあります。この通りですと、さくらもちさん、という人が、百円の野菜を出して、売れた、ということになります。

さくらもちさんとは、だれでしょう。

山本さんは首をかしげました。

いつも野菜を出している、農家さんたちに聞いてまわりましたが、だれもわかりません。

次の日、ふしぎでしょうがない山本さんは、無人市を、家のえんがわから、ながめていました。

クウタは今日も、朝早くから、ワラビを取って、もってきました。

昨日出したワラビが、なくなっているのを見て、とび上がってよろこびました。そしてまた、いっしょうけんめい、さくらもち 百円、と書いて、ワラビにつけ、お山へ帰っていきました。

山本さんは、その様子を、ずっと見ていました。

これは、めずらしいものを見た。すると、さくらもちさん、というのはあの子ぎつねで、ワラビを売ったらしい。なんとも、かわいらしい子ぎつねだったなあ。しかし、どうして子ぎつねがワラビを売っとるのか。

山本さんは、無人市のおとなりの、和菓子屋さんのはり紙に気がつきました。

ははあ、ふむ、ふむ。

山本さんは、あごを手でさすりながら、なんどかうなずいていました。

その日のワラビも、すぐに売れました。

次の日、山本さんは、ワラビが売れた代金を、クウタの字が書いてある、紙に包んで、木箱の上においておきました。

やってきたクウタは、自分のにおいがする包みを見つけました。開けてみると、百円が二枚で、二百円が入っていました。クウタはとび上がってよろこびました。ついに、お金を手にいれたのです。

さっそく、クウタは、和菓子屋のレジの上に、ピョーンと高くジャンプして、二百円をおきました。そして、はっと、気がついて、外のものかげにかくれました。

和菓子屋のおかみさんは、レジのところに、二百円がおいてあることに気がつきましたが、だれがおいたかわかりません。

そこへ、にこにこした山本さんが、やってきました。そして、山本さんが言うように、さくらもちを二個、包んで、外のきゅうけい用の、いすの上におきました。

すると、子ぎつねが、たまりきれず、すがたをあらわしました。

子ぎつねは、包みをかかえて、ペコリ、とおじぎをして、はねていきました。

「あれまあ、きつねのお客さんは、初めてだわねえ」

おかみさんと、山本さんは、顔を見合わせて、ほっほっほ、と笑いました。


お山で、さくらもちを見せられた母きつねは、とてもびっくりしました。クウタがワラビを売って、さくらもちを買ってきたことを聞くと、もっとびっくりして、感心しました。

「お母さん、おいしい! 甘くて、おいしいなあ」

クウタは、さくらもちを食べて、ピョンピョンはねて、よろこびました。

「あら、ほんとに。おいしいねえ」

母ぎつねの顔も、ほっこりほころびました。