ムニとモニ


もりの なかの いっぽんの き。
 
そこに いもむし おうこくが ありました。
 
おうこくは いま おおいそがし。
 
もうすぐ ムニおうじと モニひめの けっこんしきが あるからです。
 
けれど ムニおうじは ひとり。
 
かなしそうな かおを しています。
 
「ぼくは りっぱな おおさまに なれるだろうか」
 
ムニおうじは とても ふあん だったのです。
 
そこへ、カラスが やってきました。このカラス、まえまえから ムニおうじを たべてしまおうと ねらって いるのです。
 
「ごきげんよう、ムニおうじ。きょうは わたくしの たからものを みせて あげましょう」
 
カラスは きれいな ビーだまを ムニおうじに みせました。
 
ビーだまは あおく キラキラ ひかっています。
 
「わあ。きれいだ。みていると きもちが すがすがしくなる。そうだ、これを わたしに くれないか?」
 
「カアーカッカッ。いいえ、おうじ。これは わたしの たからもの。たからものは じぶんで みつけるもの」
 
カラスは ビーだまを ささっと はねの したに かくしました。じぶんで みせて  おいてです。
 
「ムニおうじも たからものを さがしに いっては どうですか?なに、すぐ みつかりますよ」
 
カラスは また ちらっと ビーだまを みせました。
 
「うん。そうしよう。ぼくも たからものを みつけたい」
 
ムニおうじは ひとり こっそりと
 
すみなれた きを おりて いきました。
 
そして やわらかい くさの うえを ムニムニ あるいて いきました。
 
ムニ (モニ) ムニ (モニ)
 
たんぽぽと すみれの もりを あしばやに
 
ムニ (モニ) ムニ (モニ)
 
しろや きいろの ナズナの はやしを こえ
 
ん?おかしいな。ぼくの あしおと じゃない おとが するような。
 
ムニ (モニ) ムニ (モニ)
 
カラスノエンドウの ジャングルも かきわけ かきわけ
 
ムニ (モニ) ムニ (モニ)
 
つくしの はやしも とおりすぎ
 
ムニ (モニ) ムニ (モニ)
 
こんなに あるいたのは はじめてだ。でも なかなか たからものは みつからないな。
 
ピューヒュルルルー
 
そら たかく とんびが なきました。
 
「こんにちは とんびさん。あなたの たからものは どこにあるの?」
 
「そうですね。わたしの たからは
 
この つばさ。 なには なくても」
 
「うん。なるほど なるほど。きみは とても じゆうに とべるもの」
 
おうじは つかれて いたけれど また あるき だしました。
 
ムニ (モニ) ムニ (モニ)
 
ぼくは なんて のろま なんだ
 
ムニ (モニ) ムニ (モニ)
 
それでも ぼくは がんばるぞ
 
ムニ (モニ) ムニ (モニ)
 
でも、この みちで あって いるのかな。
 
ブイーン ブイーン ブジジジジ
 
なのはなばたけ みつばちたちが いそがしく はたらいています。
 
「みつばちさん。あなたの たからものは  なんですか?」
 
「わたくしたちの たからものは おいしい  はなのみつ。 わかりきったこと」
 
「うんうん。なるほど。ぼくも おなかが ぺこぺこだ」
 
ここらへんには ぼくの たべられる はっぱも ない。もう かえろうかな。ムニおうじは おなかが すきすぎて へたりこんで しまいました。
 
きゅるるる (きゅる きゅる きゅるる)
 
おなかが なりました。
 
ん?なんだか ぼくの おなか よく なるなあ。
 
「だれだい。おれさまの あたまの うえで もぞもぞ するのは」
 
きゅうに した から こえが して、ムニおうじの いた じめんが もりあがりました。
 
ムニおうじは、あおだいしょうの あたまの うえで やすんで いたのです。
 
「わあ。おおきな へびさん。そうだ。ぼくを のせて いって もらえませんか?あなたの あたまの うえは とても いいながめだ」
「うへっ。いもむしに そんなこと たのまれるとはね。かわりに なにか くれるのかい?」
 
「うーん。ぼくの もっているもの といえば。そうだ この かんむりを さしあげましょう」
 
「うへっ。ちいさい かんむりだな。ふむ。だが、わるくない」
 
あおだいしょうは そうげんを くねくね すべるように はしりだしました。
 
ムニおうじは かぜで とばされそうに なりました。
 
「ムニーー!」 (モニーー!)
 
なれてくると、とても そうかいです。
 
「へびさん。とても いいきぶんだ」
 
「へんな いもむしだな。なんだって あんなところに いたんだい」
 
「ぼくは よわむし。だから ゆうきの でる たからものを さがして いるのです」
 
「ふうん。とても そんな ふうには みえないけどね。ん?なんだか さっきから ずっと しっぽの あたりが むずむず するなあ」
 
あおだいしょうが しっぽの ほうを みようと たちどまった とき。
 
ゴオオオオオオオーー
 
きゅうに とっぷうが あおだいしょうもろとも そら たかく ふきとばして しまいました。
 
「ムニーーーー!(モニーー!)」
 
「うへえーー!」
 
ムニおうじが きがついたとき。
 
そこは しらない ところでした。
 
ああ、もう おうこくへ もどれない。
 
なんて さびしい。ムニおうじは なきました。
 
「あ、いたー! ムニおうじ。さがしましたよ」
 
そこへ カラスが まいおりて きました。
 
「おお、カラスさん。ぼくは もう おうこくへ かえりたい」
 
「ふふ。やい ムニ。かんむりも ないし おまえなんか ただの いもむしだ。へびの あたまに のっかって いった ときは びびったけど。ここなら だれにも みられて いないし。さあ、 もっと ちかくに きて ごらん」
 
「どうしたのですか カラスさん」
 
カラスは いよいよ ムニおうじを たべてしまう つもりです。
 
「ムニおうじ! いけません!」
 
ムニおうじの まえに とびだしたのは、なんと フィアンセの モニひめでした。
 
「うわっ!? モニひめ。なぜ ここに?」
 
「ああ、おうじ。わたくし、ずっと あなたの あとを ついて きましたの。うんよく おなじ ところに とばされて ほんとうに よかった」
 
「モニひめ。どうして こんなことを」
 
「おうじが しんぱいだったのです。かなしそうな かおで こっそり でていく あなたが」
 
おうじの むねが じんわり あたたかく なりました。
 
「カアーカッカッ。びっくり したなあ。おれも きがつかなかった。まあ、いいや。にひき まとめて いただきまーす」
 
カラスの くちばしが せまってきます。
 
ムニおうじと モニひめは ひし と だきあいました。
 
こんどこそ たべられて しまいます!
 
しかし、すんでの ところで、カラスは あわてて とびさって いきました。
 
 
おとこのこが かけよって きたからです。
 
「わあ。 ようちゅう! にひきも いるよー。カラスが つついて いたよ」
 
おとこのこは ムニおうじと モニひめを やさしく むしかごへ いれました。
 
「ぼくが ちょうちょに なるまで そだてて あげるね!」
 
おとこのこは にっこり わらいました。
 
ムニおうじと モニひめは きょうも むしかごの なかから まどの そとの けしきを ふたりで ながめています。
 
「ぼくたちは おうこくへ かえることが できる だろうか」
 
「おうじ、 わたくしたち もうすぐ あのまどから ふたりで とんで いけますわ。あの たんぽぽの わたげの ように。そうしたら、おうじは また たからものを さがしに いって しまわれるのですか?」
 
「ううん。もう、いかないよ。モニひめ」
 
そうして ふたりは また よりそうのでした。
 
おわり